あるママさんから伺ったお話です。
息子さんは、自閉症スペクトラムの特徴があるお子さんでした。
彼は、運動会で使う、鼓笛隊の衣装を着るのがどうしてもイヤでした。
だから、いつも衣装を着ることを拒否して、ママさんを困らせていました。
保育園の先生も、運動会の前日まで、着させてみようと何度かトライしましたが、どうしても着たがりません。
ママさんは、「やっぱり無理かな?」と思い、先生にも「無理やり着させてパニックになるよりも、普段通りの格好でいいから楽しく参加させてほしい」と伝えました。
保育園の先生も、賛同してくださいました。
運動会の当日。
我が子の出番を、観客席で待っていたママさんは、やがて息子のクラスが出てきた様子を見て、驚きました。
なんということでしょう。
我が子が、鼓笛隊の衣装を着ているではありませんか!
あれだけ嫌だと言って、一度も着なかった息子が、今、自分の目の前で衣装に身を包んでいるのです!
そして、最後まで衣装を脱ぐことなく、またパニックになることなく、演技終了まで過ごせたのです。
ママさんは、息子がどんな理由かは分からないけど、何がそうさせたのか分からないけど、一所懸命頑張ったんだな、と我が子を愛しく思ったそうです。
後で先生に聞いてみると、こんなやり取りがあったそうです。
出番の直前、お友達はみんな衣装に着替え始めました。
その時、先生がその子に向かって、「着てみる?」と何気なく聞いたところ、「うん」と言って、黙って着替え始めたそうです。
それも嫌がることなく。
そしてそのままパニックになることなく出番を迎えたそうです。
この話を聞いた時、ママさんはこう思ったそうです。
「この子なりに、頑張ろうとしているんだな」と。
彼のしたことは私たち大人からしてみると、小さな変化かもしれません。
人によっては、「ほら!ちゃんとやろうと思えば、やれるじゃないの!」と、さも当たり前のこととして捉えるかもしれません。
でも、それは違います。
私たち大人は、彼の小さな頑張りを見逃してはいけないのです。
彼の頑張りを見つけ、認めてあげるべきなのです。
それが、私たち大人の役割なのです。
ママさんによると、その演技の後もパニックになることなく、過ごせている我が子が、いつもに増して楽しそうで、力強く見えたそうです。
自閉症スペクトラムのあるお子さんも、彼等なりに頑張っているのです。
「この子はこうだから…。」とか「どうせ無理だし…。」といった言葉は、彼等の可能性を奪っていきます。
私たち大人は、子どもの課題を見つけて、修正させるために存在するのではありません。
小さな頑張りを見つけ出し、子どもを認め、その頑張りをそっと見守り、心から応援することこそ、大人の役割です。
そして、ママさんが気付かないくらい小さな小さな頑張りを見つけ出し、ママさんに伝え、子どもを認め、もっと伸ばしてあげることができる人こそ療育のプロです。
私たちは、そんな療育のプロであり続けたいと思っています。